Perspective

29 9月, 2025

Artificial Intelligence

AIを支える大容量:Dropbox、Seagate Exos 32TBドライブの正式採用へ

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パートナーシップ・ロックアップに配置されたDropboxとSeagateのロゴ。

Dropboxは今年6月、SeagateのHAMR対応Exos® 32TBハードディスク・ドライブ(Mozaic™プラットフォーム搭載)を正式に採用し、同社のデータ・センターに導入しました。これにより、DropboxとSeagateは、拡張性と持続可能性を備えたインフラの実現に向けて新たな一歩を踏み出しました。これは持続可能性の目標を追求しつつも、AIワークロードの拡張が可能になったということであり、Dropboxにとっては画期的な出来事です。大容量を誇るMozaicプラットフォームなら、インフラの設計を見直すことなく容量を拡張することができます。容量と引き換えに、消費電力や専有スペース、二酸化炭素排出量が増えるということもありません。

今回の正式採用の意義と業界の動向を探るため、Dropboxインフラ・チームCTOのアリ・ダスダン (Ali Dasdan) 氏、テック・リードのジェシー・リー (Jesse Lee) 氏、ストレージ・テクノロジストのヴィシャル・マナナル (Vishal Manannal) 氏に話を伺いました。

進化し続けるAIワークロードは、データ・インフラの優先順位、中でもストレージ容量やパフォーマンス、効率性といった側面の優先度に、どのような変化をもたらしているのでしょうか。

Dropbox:AIによってインフラに対する考え方は根本的に変わりつつあります。重要なのはより多くのデータを保存することではなく、よりスマートに保存することです。これまでは理論上の最大容量に関心が集まっていましたが、そこから全体的な効率へと焦点が移ってきています。AIモデルはより複雑化し、大量のデータを必要とするようになっています。Dropboxでは、このような状況においてパフォーマンス、拡張性、効率性はもはやトレードオフではなく、バランスを取るべきものであると認識しています。

AIデータは常に動いており、テキスト、画像、音声など多様なフォーマットで取り込まれ、生成され、処理されます。AIライフサイクルの各段階では、データセットの規模が拡大し、内容が充実するにつれ、ストレージに対して異なる要求が生じます。ハードディスク・ドライブとSSDを戦略的に組み合わせた適切なストレージ・アーキテクチャの選択は、アプリケーションの速度からコスト最適化、効率性に至るまで、AIの成功における重要な差別化要因となっています。

大規模なAIは、ストレージ・インフラストラクチャに関する意思決定にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

AIワークロードはホット・データ、ウォーム・データ、コールド・データの各段階にまたがっており、パフォーマンスとコストの要件がそれぞれ異なります。例えば、オフラインでの文書取り込みやアーカイブ作業においては、ハードディスク・ドライブのコスト効率と拡張性が有利に働きます。一方、低遅延が極めて重要となる運用ワークフローにおいては、SSDを使うことで処理を高速化できます。

当社のアーキテクチャはこの点を反映しています。

  • HBM/DRAMは、リアルタイムのトレーニングや推論における演算側のスループットを支えます。
  • SSDは、速度とIOPSが極めて重要な、遅延の影響を受けやすいタスク、モデル・トレーニング、リアルタイム推論といったホット・データを処理します。
  • ハードディスク・ドライブは、ウォーム・データ層とコールド・データ層を支える基盤として、拡張性に優れたデータ取り込み、長期保存、断続的なアクセスをサポートします。これはAIデータ・レイク、過去のトレーニング・セット、推論アーカイブに最適です。HAMRのような技術が進歩するにつれ、ハードディスク・ドライブはAIの成長を支えるために必要な密度、耐久性、エネルギー効率の向上を実現すると同時に、持続可能性の目標に向けて前進していくことでしょう。
Mozaic技術が採用された内蔵ハードディスク・ドライブの画像。

DropboxがSeagateのMozaicプラットフォームとの統合を選択した理由は何でしょうか。デバイス・レベルでのイノベーション、具体的にはMozaicにおける技術的な飛躍は、Dropboxのデータ目標の実現にどう関わり、PMRでは解決が適わなかった技術的、運用的なニーズにどのように応えるのでしょうか。

ワークロードが増大する中で、当社で優先順位が高いのはストレージ密度、遅延制御、コスト管理ですが、パフォーマンスも犠牲にしません。それがSeagateのMozaicプラットフォームとの統合に踏み切った理由です。この次世代のソリューションは、HAMR技術によって記録密度が飛躍的な水準に達しています。その技術はSeagateの先進的なメディアや設計を見直した読取り/書込みヘッド、進化したファームウェア、シームレスに統合されたホストの支えによって成り立っています。

SeagateとDropboxは共同で、音響、振動、熱力学の面で最適化された高密度シャーシを開発しました。これにより、システムを拡張する際にも低遅延アクセスが保証されます。

こうしたテクノロジーを駆使して構築されたDropboxは変化に合わせてインフラを進化させることができ、当社もAIやデータにおける目標の実現に向けた取り組みを正確かつ自信を持って推進できる、Win-Winのパートナーシップです。

Dropboxはどうやってアーキテクチャに大きな変更を加えずに、HAMR技術を導入できたのでしょうか。

HAMRドライブを大きな負担もなく統合できたのは、当社の将来を見据えたインフラ戦略のおかげです。新しいラックも、複雑な設計の見直しも、既存アーキテクチャのインフラの大改修も必要ありませんでした。

Dropboxのストレージ・アーキテクチャは優れた適応力を意図した設計になっています。以前Magic Pocketプラットフォームにシングル磁気記録 (SMR) を採用していたため、それを基盤としてHAMRのような新しいイノベーションを取り入れることができました。Mozaicドライブは、Dropboxの既存ソフトウェア・スタックと連携し、使い慣れたAPIとゾーンベースの書込みパターンを活用することで、設計を見直すことなく先進技術の円滑な導入とシームレスな拡張性を実現します。当社は最小限の混乱で高密度ストレージへの拡張を実現し、信頼性やパフォーマンスを損なうことなく、コスト効率の向上からエネルギー消費量の削減に至るまで、優れた運用性と長期的なビジネス価値を提供してきました。

Dropboxは長年、事業の持続可能性に注力してきた経緯があります。AIによってストレージのニーズが高まる中、ビジネスの効率性と運用の持続可能性はどの程度両立するでしょうか。

当社はワークロードをより少ない、より高密度なプラットフォームへの統合を進めています。それによって運用効率と持続可能性の向上という形で早々に成果が現れています。サーバー1台あたりのストレージ密度が高いということはサーバーの台数が減るということであり、電力や冷却、保守管理に伴うコストの削減に直結します。同時にデータ・センターのスペースの最適化になり、電子廃棄物や原材料の消費を最小限に抑えられます。

ハードウェアのアップグレードによってライフサイクル全体のTCOが大幅に削減されるため、早期の投資が実を結び、財務面で慎重さを保ったまま長期的な持続可能性を両立できます。

Dropboxが大容量ドライブによって早期に達成した効率性や持続可能性の向上という成果はどのようなものでしょうか。また、その早期の成果はどのように長期的な影響を及ぼしていくのでしょうか。

SeagateのMozaicプラットフォームを採用したことで、これまでで最も費用対効果に優れたデータ・センターを構築することができました。ドライブの記録密度の大幅な向上によって、さまざまな面でTCOが最適化されました。ストレージにおける目標はそのままで、その達成に必要なドライブ、ラック、ネットワーク・インフラの数が削減されたからです。

即効性のあるメリットは明白です。第4世代のハードウェアから第7世代のハードウェアに移行することで消費電力は50%削減され、ストレージの物理的な設置面積は1エクサバイトあたり75%減少しました。これにより電力、冷却、ドライブの保守管理にかかる事業運営費を大幅に節約しながら、ハードウェアやインフラの要件を最小限にして設備投資を抑えられるようになりました。

こうした早期の成果は事業運営の効率化だけでなく、長期的な持続可能性への影響も大きく、その積み重ねは二酸化炭素排出量の削減効果をもたらすと同時に、データ需要の増加に応じたシームレスな拡張も可能にしています。この戦略的な取り組みの結果が、今までよりも無駄がなく、環境に優しいデータ・センター・エコシステムであり、AIを軸とした未来のワークロードの構築です。

Mozaicのような大容量でエネルギー最適化されたプラットフォームへの投資は、今後DropboxがESG目標を達成しながら未来のワークロードを拡張する上で、どのように役立つでしょうか。

Mozaicのような主要プラットフォームに投資することで、拡張性のあるパフォーマンスと環境に対する責任という2つの重要な優先事項に並行して取り組むことができます。

Mozaicは、従来のPMRドライブでは解決できなかった課題を解決してくれます。大容量ハードディスク・ドライブを高密度アーキテクチャに配置することで、ディスクあたり3TBを超える前例のない記録密度を確保できました。Mozaic対応ドライブなら、最新のワークロード・タスクの大多数に最適なパフォーマンスを大規模に実現できます。

同時に、Mozaicにはサーバー・ハードウェアを統合して、使用ドライブの数を減らせる効果があるため、1ペタバイトの保存データあたりのエネルギー消費が抑えられ、物理的なインフラの設置面積が小さくなり、冷却の必要性と原材料の使用量を同時に減らすことができます。これはワット・パー・ペタバイト (W/PB) 指標を前年比で継続的に抑制することにつながり、業務効率の向上と二酸化炭素排出量の削減を直接促す原動力となっています。

データが増大し続ける中、Mozaicのようなプラットフォームは、インフラの将来性を確保するとともに、俊敏で回復力があり、気候変動を意識したデータ基盤を構築する上で不可欠となるでしょう。

業界全体で、汎用システムから特定のワークロード向けに最適化されたインフラへの移行が進んでいます。Dropboxはこのトレンドにどのように対応し、新たに出現したAI分野におけるニーズに応えているのでしょうか。

Dropboxはワークロードに最適化したインフラ戦略を推進し、パフォーマンスと持続可能性のバランスを取っていますが、これはAIの拡張性にとって極めて重要です。

AIワークロードが増大する中、Dropboxは従来の汎用システムからの移行を躊躇なく進めています。これらのシステムはエネルギー効率に劣り、現代の推論要求に適していないからです。代わりに、AI専用の高効率コンピューティング・プラットフォームを導入し、ワークロードを適正規模に調整することで過剰なプロビジョニングを削減し、コロケーション施設全体で電力使用効率 (PUE) を継続的に改善しています。

Dropboxはハイブリッド・クラウドで運用していますが、戦略的に特定のAIタスクをオフロードすることで、リソース利用の最適化と内部のエネルギー負荷削減も実現しています。それと同時に、コストと持続可能性のトレードオフを管理し続けています。

このインフラを最優先とするアプローチは、Dropboxが責任あるイノベーションに取り組む姿勢を反映しており、環境や業務の一貫性を損なうことなくAI機能を拡張することを可能にしています。

AIモデルは今後ますます大規模化し、分散され、電力を消費するようになりますが、Dropboxが今日インフラに関して下す決断は、そうしたAIモデルに対応できるプラットフォームを構築するうえでどのように役立つのでしょうか。

今日私たちがインフラに関して下す決断は、未来の形に影響を及ぼしていくと思われます。当社では規模と精度、適応力を追求した設計に取り組んでおり、プラットフォームの統合やサプライヤとの調整、事業運営の柔軟性の3つを柱にインフラ戦略を構築しています。

AIソリューションの需要の高まりに応じて、専用のハードウェア階層を導入しているほか、液冷技術の研究や音響および熱の管理方法の改善に取り組んでいます。その成果は、特にHAMRベースのストレージが拡大し、将来のインフラを支える要へと成長していることに表れています。

Dropboxは今後も、この継続的なイノベーションという考え方を重視していきます。

Seagateとの提携は、Dropboxにとって戦略的に正しい選択だったと言える理由は何でしょうか。

Mozaic技術が採用されたハードディスク・ドライブ・アクチュエーターのクローズアップ。

DropboxとSeagateは買い手と売り手という関係に収まらない、真に協力的でイノベーション主導の多面的なパートナーシップを共有しています。

これまで、SMRの実現や共同でのHAMR対応サーバー・システムの特性評価、Dropboxの本番環境へのSeagate Mozaicプラットフォームの統合など、先進のストレージ技術の共同開発と導入を両社合同で行ってきました。この協働を通じて、Dropboxでは高密度ストレージを正確かつ効率的に拡張できるようになりました。

インフラ以外でも、SeagateのUltra Touch製品をはじめとする市場進出で連携し、外付けハードディスク・ドライブからDropboxに自動バックアップを行えるという便利な機能をお客様に提供しています。また、オンプレミスやLyve CloudでSeagateのハードディスク・ドライブを利用することで、Seagateストレージに全面対応したパートナーとして独自の顧客プロファイルを築いています。

このパートナーシップは、戦略的連携とイノベーションの共有がデータ・プラットフォームの新たな可能性を拓くことを示す好例です。

最後に、どこに投資すれば持続可能性を維持しつつAI主導のデータ需要に対応できるのかという悩みを抱えている事業者に向けて、次の波に備えてストレージ・インフラやコンピューティング・インフラを整えるためのアドバイスをお願いします。

インフラの未来を考えるときに大事なのは、闇雲に規模を拡大することではなく、スマートに拡大することです。将来を見据えたインフラ整備に向けて、当社では次の3つの戦略を掲げています。第一に、イノベーションの原動力となるものを築くこと。第二に、統一的なインフラ戦略を立てること。第三に、戦略的パートナーシップに精力的に取り組むことです。

パフォーマンスと効率、持続可能性のすべてで優位性を保つには、新しい技術の導入に積極的に向き合い、イノベーションの原動力となるものを築くことが不可欠です。密度と省エネを両立するSeagateのMozaicのようなプラットフォームはその好例です。また、ストレージとコンピューティングについて総合的に考え、統一的なインフラストラクチャ戦略を立てることも、同じくらい重要です。特にAIワークロードに関しては、両者を緊密に統合することでスループットを最大化し、無駄を省くことができます。最後にお伝えしたいのは、大きな成果は独力ではなしえないということです。DropboxとSeagateのような戦略的パートナーシップは、実現能力を高め、ソリューションの共同開発や変化に対応できる事業運営を行う上で、非常に重要な役割を果たしているのです。