「データの脱炭素化」報告書
AI時代のデータセンターの持続可能性に関する課題とソリューション。
分(読取り)
目次:
世界中でデータ集約型の人工知能 (AI) テクノロジーの利用が急速に広がる中、データセンターの運用ではかつてないほどのエネルギー需要と増大しつづけるCO2排出量の問題に直面しています。深刻化する環境への懸念に対処する一方で、コンピューティング性能とストレージ容量の拡大、総所有コスト (TCO) の目標達成といった課題にも取り組まなければなりません。
McKinseyによると1、データセンターの電力需要は2030年末までに3倍になると予測され、「コンピューティングとデータ需要の急増は、コンピューティング性能の向上に加え、電力消費に対するチップ効率の低下と並行して、さらに加速している」と言われています。
Seagateは、世界の主要データセンターにデータストレージを提供するグローバルリーダーとして、サステナビリティやコスト効率の高いストレージに対する需要拡大といった、データセンターに関する議論の最前線に立っています。その中でも特に、TCOとサステナビリティの目標は相反するものではなく、多くの場合は一致すると、顧客との連携を通じて学んできました。
SeagateではTCOとサステナビリティの関連性をより深く理解するために、データセンターの専門職を対象に調査を行いました。このレポートは、調査回答者から得られたインサイトをもとに、データセンターのサステナビリティに関する課題を理解するうえで重大なギャップがあること、またこうした課題がサプライチェーン全体にどのような影響を及ぼすかを明らかにしています。これらのインサイトは、ビジネス成長と環境目標の両方を達成する、情報に基づいた意思決定に役立つはずです。
どちらか一方に偏る必要はなく、双方を達成可能です。
このSeagate Technologyレポートは、Seagateの委託により、独立系調査会社であるDynataが実施した世界的規模の調査をもとに作成されています。実地調査は、グローバルコミュニケーションを専門とするコンサルティング会社のCurrent Globalが担当しました。
調査は、AIの影響によるデータセンターのサステナビリティに対する負荷の増大を検証し、運用効率向上の機会を捉えるために、定性的・定量的の両観点から行われています。
まず、米国、ドイツ、中国、日本のデータストレージおよびインフラ分野のシニアエキスパート5人に対する定性観点からの徹底的なインタビューから開始。各エキスパートはいずれも、データセンターの計画、運用、サステナビリティに関連する10年以上の経験を有しており、業界の課題や新たなトレンドについて確かなインサイトを得ることができました。これらのインサイトをもとに、グローバル規模の定量的調査が設計されています。
調査では、オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、インド、日本、北米、シンガポール、韓国、台湾、英国の11市場にわたる、データセンター専門のエキスパート330人から回答が得られました。回答者は全員、少なくとも50TBのストレージ、大半は最大5PBのストレージを管理する企業に勤務しています。調査回答者には、データストレージソリューションの提供などデータストレージ関連の企業/組織に所属する、CIO、CTO、IT担当部門長、取締役、執行役員、COO/LOB、ストレージアーキテクト、ソリューションアーキテクトなどが含まれます。
この調査は、データセンターの効率性とサステナビリティの現状を探求し、業界のトップ企業にビジネスの活性化と持続可能な意思決定を導くデータ主導のインサイトを提供することを目的としました。
Seagateは、45年以上にわたり累計45億テラバイトを超える容量を提供してきた、スケーラブルな大容量データストレージのグローバルリーダーです。
現在のAI経済の基幹を支えるデータセンター。AIテクノロジーの急速な利用拡大によって、データセンターはかつてないほどのエネルギー需要と増大しつづけるCO2排出量の問題に直面しています。この調査結果から、次の2点が明確に示されました。
これはエネルギー需要の増大と密接に関係します。IEEEのデータによると、2030年までにデータセンターのエネルギー需要は世界のCO2排出量の8%を占める可能性があり、2022年の0.3%から大幅に増加すると予測されています。
組織はAIイノベーションに後れを取ることなく、データインフラの拡張と同時に、サステナビリティに関する企業責任も果たしていかなければなりません。企業に対する期待はますます高まり、さらに規制要件を満たしたうえで、コスト効率とサステナビリティを両立しながら、データセンターを運用していく必要があります。この2つの要件を両立させるのは簡単ではありません。データセンターのエネルギー消費が増大するほど、CO2排出量の削減は難しくなるためです。
こうした理由から、総所有コスト (TCO) とサステナビリティ目標は相反するもののように見えますが、調査から次のような結果が明らかになりました。
しかし、この調査では、「TCOとサステナビリティは優先事項として相反するものではない」という別の結果も明らかになり、TCOとサステナビリティの観点では、運用効率の向上や環境負荷の低減といった検討事項が一致する場合も多いことがわかりました。
この調査の結果、データセンターの運用は、TCOとサステナビリティどちらの目標にも組み入れられる、次のような要因に影響を受けることがわかっています。要因には次のものがあります。
エネルギー消費:エネルギー消費量が増大すれば運用コストとCO2排出量の両方が大きく引き上がるため、回答者の53.5%が重大な懸念と判断。
原材料の必要量:調査に参加したデータセンター関連プロフェッショナルの49.5%近くが、重要な問題として「インフラに必要な大量の原材料」と回答。
物理的スペースの制約:回答者の45.5%近くが、スペースの制約による経済的・物流的負担を強調。
インフラコスト:資本支出 (CapEx) に大きく影響するとして、持続可能なインフラ構築にかかる高額の建設費(回答者の28.5%)、データセンターコンポーネントの取得費(回答者の27%)。
機器ライフサイクルの延長:交換や保守コストを削減するために耐久性を重視し、「ストレージ機器のライフサイクル延長は重要」と考える回答者は92%を上回るものの、インフラやデータストレージ機器の取得時に「ライフサイクルの延長」を最優先する要素に挙げた回答者はわずか15.5%、「耐久性」を選択した回答者は12%。
こうした懸念は、資本支出と運用コストの両方を含むTCOの多面的な性質を浮き彫りにすると同時に、サステナビリティに直結する負担でもあります。エネルギー効率の向上は排出量と運用コストの両方を削減、機器のライフサイクル延長は電子廃棄物や原材料の需要を最小限に抑える要因です。
ただし、サステナビリティの追求によってTCOの算出が複雑になる可能性もあります。
たとえば、電力消費量はTCO算出にもともと含まれているような部分ですが、環境に配慮したエネルギー源を採用しようとすれば初期コストが高くつき、取得するエネルギーの性質上、すでに課題とされているコスト効率の問題に、さらなる制約がコストと効率の両面で加わることになります。
AIの利用拡大とともに生成されるデータ量は急増し、この膨れ上がるデータを格納するスペースの限界に、多くの組織が苦戦しています。スペースの制約は持続可能なストレージソリューションの拡張・採用に影響するほか、持続可能なインフラ採用にかかる高額な初期コストは、依然として進捗を妨げる大きな障壁となっています。
持続可能なデータセンター運用を阻む主要な要因について質問したところ、物理的なスペースの不足 (45.5%)、ストレージインフラの構築コスト (28.5%)、データセンターコンポーネントの取得コスト (27%) が上位に挙げられました。
こうした障壁から、組織は多くの場合3つの選択肢に迫られることになり、急増するデータ量に対応するためには、このうち1つを選択しなければなりません。
いずれを選択したとしても、TCOとサステナビリティのトレードオフが伴います。
調査では、サステナビリティとTCOの目標に並行して取り組むことができる数多くの戦略を掲げる企業はますます増えていることが判明。
再生可能エネルギー:回答者の約62%が、自社のデータインフラの電力供給に再生可能エネルギーを現在使用していると回答
再生可能エネルギーのインフラ:調査に参加した58%近くが、「所属する組織は再生可能エネルギーのインフラに投資している」と回答。
AIを活用したストレージとサステナビリティ運用:さらに、調査に参加した組織の55.5%が、ストレージ運用の最適化とサステナビリティ指標の計測にAIベースのシステムを採用。
こうした取り組みにもかかわらず、まだ課題は残されており、大半の企業が高コストのインフラやコンポーネントコスト、スペース制約といった問題に苦戦しています。
今後たどるべき道
これらの課題に立ち向かうには、業界がTCOとサステナビリティについて取り組んでいくアプローチの転換が不可欠です。どちらも目標に向かい同じ道を進んでいます。サステナビリティ目標によってTCO計画が複雑になる場合、エコシステム全体で以下の点に注意する必要があります。
AIがデータセンターのサステナビリティに及ぼす影響は大きく、データセンターの従来の運用方法に対する革新的かつ包括的な考え方が求められています。特に、事業運営に関連するCO2排出量(スコープ2、スコープ3)以外にも、製品に内包炭素、つまり製品ライフサイクル上流の原材料抽出、生産、輸送、部品表、製造、パッケージ、流通の段階で排出される炭素量(スコープ3)も評価に入れる必要があるということです。
AIアプリケーションのブームがデータセンターの成長を刺激している今、持続可能で効率的なデータスフィアを実現するには、サプライチェーン全体でのコラボレーションとイノベーションが重要なカギになると見られています。
現在のAI経済でデータストレージ需要の急増を引き起こしているのは、さまざまなスマートテクノロジーの急速な採用です。調査回答者のほぼ全員(97%超)が、「AIはストレージ需要に大きく影響することになる」と予測しています。しかしデータには必ず「足跡」が残り、つまりデータセンターがエネルギーを消費すれば排出が発生します。
AIによるストレージ需要の増加は、データセンターのカーボンフットプリントの直接的な拡大です。データ量が増えれば、当然そのデータを保持するためのエネルギー消費も増大します。もちろん、AIのエネルギー需要はデータストレージへの影響だけではありません。最もエネルギーを消費する分野には、コンピューティング、ネットワーク、データ処理なども含まれます。
サプライチェーン全体も同様に重要です。特殊なプロセッサーやハードウェアなどAI用コンポーネントの製造は、エネルギーやリソースの消費が極めて高く、こうしたコンポーネントの「内包炭素」を増大させます(「内包炭素」とは、原材料抽出、生産、輸送、部品表、製造、パッケージ、流通など製品ライフサイクルの上流段階で発生する温室効果ガス排出量です)。したがって、AIシステムの製造と運用の両方がカーボンフットプリントを拡大し、データセンターが直面している環境問題をさらに深刻化させています。
この新たな必要性に対応するため、多くのデータセンターがサステナビリティと脱炭素化を優先課題とし始めています。調査では回答者のほぼ全員(約94.5%)が、「社内のデータストレージ運用におけるカーボンフットプリントの縮小に取り組んでいる」と回答しました。
調査によると、環境負荷を軽減するために企業が優先している取り組みは、再生可能エネルギーの採用です。
もう1つの戦略がクラウドへの移行です。回答者のほぼ半数(47%超)が、「クラウドシステムへの移行がカーボンフットプリント縮小につながる」と考えています。クラウドサービスプロバイダーは、クラス最高の手法とインフラを確立しており、データ運用における環境負荷の低減については優位なポジションにあります。
ただし、この戦略の採用を考えている企業は注意が必要です。クラウドへの移行が環境負荷の排除ではなく、単なる責任転嫁にすぎないと見られる可能性もあるからです。クラウドプロバイダーの方が効率的な運用が可能であるかもしれませんが、環境への負荷は依然として残ります。いわば環境負荷が個々の企業からクラウドプロバイダーに移るだけで、結局はクラウドプロバイダーがエネルギーとリソース需要を管理しなければならなくなります。これはクラウドプロバイダーとその顧客の双方が連携してデータのカーボンフットプリントを最小限に抑えるという、サステナビリティに対する包括的なアプローチの必要性を強調しています。
持続可能なデータストレージ運用への移行において、企業は重大な課題に直面しています。これらの課題には、物理的なスペースの制約、コスト、高いエネルギー消費、および効果的な評価が含まれます。これらの要因それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
持続可能なデータセンター運用を阻む要因として、物理的なスペースの不足(45.5%)、ストレージインフラの構築コスト(28.5%)、データセンターコンポーネントの取得コスト(27%)が上位3つに挙げられました(図2参照)。
当然ながら、新規インフラを設置するスペースの限界など、物理的な制約が最難関の課題とされ、回答者全体の45.5%が「物理的なスペースの不足」を最大の障壁と回答しています。データセンターの物理的スペースの増設には、資源やレアアース鉱物を消費して温室効果ガス (GHG) を排出する大規模な建設が伴うため、直接的なGHG(スコープ1)を大幅に増加させる可能性があります。
a) 同一スペース内での拡張によるコスト増、b) 新たな増設(こちらもコストがかかり、1つ目の選択肢よりも高額)、c) データをクラウドに移行(サステナビリティの負担をクラウドのサプライチェーンに転嫁)のいずれかを選択せざるを得ないジレンマを考えると、この調査で既存のスペースを最適化する革新的なソリューションの必要性が指摘されるのも当然でしょう。
スケールアップが魅力的な選択肢となる理由としては、次のようなものがあります。
サーバー、ストレージデバイス、ネットワーク機器を増設する必要性は、スペースの限界というこの課題をさらに浮き彫りにし、すでにスペースが不足している都市部では特に、新しいデータセンターに適した場所を見つけるのが難しくなっています。シンガポール、日本、台湾、フランス、ドイツなど一部の国では、データセンターの建設数や建設場所に規制が設けられており、これらの規制の目的は、データセンターリソースの増加による利益と環境保護や効率的な土地活用のバランスをとることです。いずれにしても、増大するデータストレージ需要に応える革新的なソリューションの必要性が強調されています
環境に配慮したインフラの建設と維持にはコストがかさみ、持続可能なソリューションの採用を阻む大きな障壁となっていることに違いありません。これらの支出には、再生可能エネルギーへの先行投資、持続可能なITインフラの継続的な支出が含まれます。
この調査では、持続可能性の高いデータストレージ運用には世界全体で平均49億ドルの投資が必要になると予測されています。この図には断定的な予算データはありませんが、1つに膨大な時間とリソースを要するその規模が、課題の重大さを明確に示しています。
追加のデータポイント
デバイス取得コストはデータセンターのTCOの大部分を占め、サーバー、ストレージシステム、ネットワーク機器の購入に必要な初期資本支出 (CapEx) は投資全体に占める割合が大きく、特にハードウェアの取得に数千万ドルかかるような大規模環境ではさらに高くなります。
エネルギー効率の高い最先端のハードウェア、再生可能エネルギー、革新的なテクノロジーを採用するには、多くの場合、高額の費用がかかります。長期的に見ればコスト削減や環境面でのメリットが期待できるにもかかわらず、こうした高額のコストから、転換に踏み切れずにいるデータセンター事業者も少なくありません。また、テクノロジーの進歩に後れを取ることなく継続的なアップグレードが必要となる点も、経済的負担をさらに大きくしている要因です。
インタビューに協力したデータセンター関連エキスパートの言葉を借りると、「株主というのは最小限のコストに重点を置くものなので、エネルギー消費量の削減や再生可能エネルギーへの投資といった取り組みにかかる多額の支出に、正当な理由を付けるのは簡単ではない」ということになります。
課題:エネルギー消費量の増大
継続的に稼働するデータセンターは膨大な量のエネルギーを消費し、電気、蒸気、熱、冷却による間接的な温室効果ガス排出(スコープ2)への影響も甚大です。サーバーやクラウドシステムを含むデータセンターインフラの「常時稼働」という性質上、エネルギー削減の取り組みは複雑にならざるを得ず、革新的なソリューションが必要とされます。
この複数の市場を対象とした調査では、環境への主な懸念として次の3つが挙げられました。
エキスパートの多くが、「早急な対策を講じなければデータ運用が環境に与える影響は拡大し続ける」と警笛を鳴らしています。
この問題をさらに深刻にしているのは、「再生可能エネルギーを探し出したものの、自分たちには持続可能なエネルギー源を選択できる力がないとわかった」と回答している企業が大多数であるという点です。
再生可能エネルギーの取得に伴う高額なコストは、大きな障壁となりかねません。
課題:測定と評価
データストレージそのものはデータセンター全体の運用に占める割合は比較的小さく(演算・処理ワークロードの方が必要とするエネルギー量は膨大)、この調査ではデータストレージが環境に及ぼす影響について、どのように捉えて測定しているかを質問してみました。
また、データストレージ業務が環境に及ぼす影響を評価するツールや手順も明らかに不足しているのが現状です。適切な評価手段がなければ、企業はサステナビリティに向けた取り組みの効果を評価し、持続可能な運用への今後の投資について十分な情報に基づいた意思決定を行うことはできません。
インタビューに協力した米国のデータセンター関連エキスパートの1人は、リアルタイムの情報を求めて、電力消費量とその変動など、関連する詳細なデータを知る必要性を次のように強調しています。「この情報はログとして記録され、何が起きているのか時系列でわかるようにするべきです。データセンターは、この情報を提供することの重要性を認識する必要があり、企業はそれを要求する必要があります。リアルタイムの監視と報告は、効果的なサステナビリティ管理に不可欠です」
サステナビリティを専門とするアジア太平洋地域のエキスパートは、報告における透明性の重要性を改めて強調しました。「包括的な環境影響レポート、ライフサイクル評価、成功事例のケーススタディなど、透明性が確保された報告は大変有益です。また、持続可能なソリューションの潜在的なメリットやコスト削減を算出できるツールもあります」
この調査により、従来のデータ管理手法を見直すことで、ほぼすべてのデータセンターがメリットを得られることが明らかになりました。多くの組織がサステナビリティの重要性を認識していながらも、包括的なアプローチではなく、個別の対策にとどまっている傾向があります。
皮肉なことに、回答者の92%以上が「ストレージ機器とインフラのライフサイクル延長がデータセンターの持続可能性に大きく影響する」と回答しているにもかかわらず、実際にライフサイクル延長を取得時の判断基準として重視しているのはわずか15.5%でした。
こうした意思決定を短期的な視点と指摘したうえで、ドイツのデータセンター関連エキスパートは次のように述べています。「残念ながら、消費者の多くは長期的な影響を考えることなく、価格の安さだけで製品を選びがちです。安い製品はすぐに故障して、結局は2〜3年で買い替えることになります。このような買い替えのサイクルは決してサステナブルとは言えず、このサイクルについて考える人も十分にはいません。製品を新たに購入するたびに、アフリカなどで採掘される部材、製造工程、人件費など、より多くの資源が再び必要になります。これはエコシステム全体に影響を与えます。現在のアプローチは、私が期待するほど効果的ではありません。
データセンターのソリューションとインフラのライフサイクルを延長することで、電子廃棄物もCO2排出量も大幅に削減できます。既存インフラを最大限に活用してライフサイクルを延長すれば、見過ごされがちな上流・下流工程での排出量削減にも貢献できます。
これは取得段階の意思決定で機器のライフサイクルを重視するメリットを浮き彫りにしています。データセンター事業者は、電力供給、データ処理、ストレージ密度を含め、すべてのコンポーネントのライフサイクルを評価することで、全体的なCO2排出量への影響をさらに深く理解できるようになります。可能であれば、循環型プログラムを採用しているプロバイダーから機器を選択するべきです。
循環型プログラムがもたらす持続可能性へのメリットは計り知れません。こうしたプログラムを通じて、環境に配慮した方法でハードディスクドライブなどの再生・再利用・リサイクルが可能になります。データセンターは「循環型の原則」を取り入れることで、電子廃棄物を削減できるだけでなく、新しい原材料の必要性も減少するため、結果的に古いデバイスの廃棄に伴う環境への影響を最小限に抑えることができます。
この包括的なアプローチならば、サステナビリティ目標に向かい前進すると同時に、効率的なリソース利用も促されます。
調査では、取得段階の意思決定において、環境への影響に対する意識のギャップがあるという実態も浮かび上がりました。
データセンターは運用中の排出量(スコープ1、スコープ2)だけでなく、機器やインフラも含めた内包炭素(スコープ3)の意識を高めることで、全体的なカーボンフットプリントを削減する機会につなげることができます。「内包炭素」とは、原材料抽出、生産、輸送、部品表、製造、パッケージ、流通など製品ライフサイクルの上流段階で発生する温室効果ガス排出量です。ストレージ機器のメーカーやインフラを提供するベンダーなどデータセンター関連のサプライヤーは、製品に含まれる内包炭素の情報を開示する責任があります。
以下の表は、ソリッドステートドライブ (SSD)、ハードディスクドライブ (HDD)、LTOテープの内包炭素量を比較し、ストレージメディアの選択によってデータセンターの総排出量にどのような違いが出るかを示したものです。Seagate Technologyは、容量、使用パターン、5年間の耐用年数に基づき、年換算のデバイス1台・1TBあたり内包炭素量を計測しました。
ストレージメディア | 製品1台の内包炭素量 (kg CO2) | TBあたりの内包炭素量 (CO2/TB) | 年換算のTBあたり内包炭素量(CO2/TB/年) |
---|---|---|---|
SSD3 | 4,915 | 160 | 32 |
HDD4 | 29.7 | <1 | <0.2 |
LTOテープ5 | 48 | 2.66 | <0.6 |
この分析では、TCOとサステナビリティの両観点で適切と考えられるストレージメディアの選択を重視しました。
表内の数値は、以下の製品を使用したSeagateの分析結果を反映したものです。
重要なインサイト:
SSD:1TBあたり・総量ともに内包炭素量は最も多く、3つのストレージメディアの中で炭素負荷の最も高い選択肢。
HDD:1TBあたり・総量ともにカーボンフットプリントは最も小さく、炭素効率の最も高いサステナブルなストレージソリューション。
LTOテープ:内包炭素量は中程度、ただし年間の負荷はHDDよりも大きい。
この分析では、TCOとサステナビリティの両観点で適切と考えられるストレージメディアの選択を重視しました。
調査の結果、企業はデータセンターのサステナビリティ向上を目指し、主に2つの戦略を推進していることがわかりました。
データインフラへ再生可能エネルギーを採用すれば、化石燃料への依存を大幅に減らすことができ、CO2排出量の削減につながりますが、同時にいくつかの課題に直面することにもなります。太陽光パネルや風力タービンといったインフラの初期採用コストは、法外なほど高額です。
また、太陽光発電や風力発電は天候に左右されるため発電量の予測が難しく、再生可能エネルギー特有の不安定さが課題となります。安定した電力供給を確保するには信頼性の高い蓄電設備が必要となり、コストはさらに増大します。そのうえ、再生可能エネルギーをデータセンターの既存システムに統合するには、複雑な変更やアップグレードが必要です。移行にも時間がかかり、地域ごとに規制や制度が異なるため、法的・運用上のハードルが高く、採用の複雑さに拍車をかけています。
データセンターは、再生可能エネルギーへの投資にとどまらず、機器とインフラの両レベルで電力消費削減に注力することが重要です。電力消費を減らせば、運用コストの削減だけでなく、全体的な需要を抑え、再生可能エネルギーの活用効果を高めることにもつながります。
Seagateでは、使用パターンと5年間のデバイス耐用年数を考慮し、3種類のストレージメディアの電力消費を分析しました。比較結果は以下の表のとおりです。
ストレージメディア | 動作電力 (W) | 電力効率 (W/TB) |
---|---|---|
SSD | 20 | 0.5 |
HDD | 9.6 | 0.32 |
LTO | 37 | 1.1 |
この調査では、データセンターの大半で排出量削減を目的としたインフラソリューションを十分に活用できていないことも明らかになりました。
インフラベースのソリューションは、エネルギー消費、CO2排出、環境への全体的な影響など、データセンターのサステナビリティ向上を図るうえで中心的な役割を担います。
サステナビリティの面で測定可能な進歩を遂げ、企業全体の収益に反映するには、短期的・長期的の両観点から捉えた戦略の採用が重要です。
即時的から短中期的には、ハードウェアのライフサイクル延長、エネルギー効率の最適化、循環型プログラムの採用といった、包括的なアプローチが必要になります。
長期的なソリューションとしては、データセンターの環境負荷を継続的に削減できる、業界全体にわたるサプライチェーン全体の連携、奨励金、AIを活用した持続可能性イノベーションが必要です。
データセンターは、再生可能エネルギーの導入を超えた包括的な戦略を策定すべきです。再生可能エネルギーの導入は基本的なステップですが(コスト面での課題もあります)、これだけではサステナビリティに関する多面的な課題に対処するには不十分です。
第一に、サーバー、ストレージデバイス、ネットワーク機器を含め、ハードウェアすべてのライフサイクルを定期的に評価・監視する体制を整えることで、データセンターに多くのメリットがもたらされます。各コンポーネントの耐用年数を把握することで、機器のライフサイクルを延長したり、環境負荷を低減する可能性を見出す機会につながります。定期的なメンテナンス、アップグレード、再生プログラムを通じたストレージ機器のライフサイクル延長は極めて重要です。このアプローチによって、電子廃棄物を削減し、新しい原材料を取得する必要性を最小限に抑え、機器製造に関連するエネルギー消費の大きいプロセスを減らすことができます。取得方針では耐久性が高く耐用年数の長い高品質コンポーネントを優先し、サステナビリティを取得判断の重要条件として組み入れることも可能です。
第二に、電力消費の削減は、サステナビリティの取り組みにおける重要な要素です。データセンターは、放熱効率の高い液浸冷却やHVACシステムなど、エネルギー効率の高いテクノロジーに投資することができます。これらのシステムは従来の冷却方式よりもエネルギー消費量を大幅に削減できるため、運用コストとCO2排出量の削減につながります。データセンターの運用に太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーを採用すれば、化石燃料への依存をさらに減らし、全体的なカーボンフットプリントを縮小する効果があります。たとえばAIベースのシステムを採用してエネルギー使用率を監視・微調整するなど、エネルギー管理の手法を最適化することも、効率的かつ持続可能な運用に役立つはずです。
第三に、データセンターは革新的でコスト効率が高く、サステナビリティを促進するソリューションの取得を優先するべきです(データストレージ環境での例については、23ページの「面密度のイノベーションとデータセンターのサステナビリティ」を参照)。
最後に、データセンターのコンポーネント廃棄に関しては、循環型プログラムの確立が有効です。このようなプログラムによって、コンポーネントは責任を持って確実に再生、再利用、リサイクルされます。ライフサイクルを終えた機器から貴重な材料を回収するプロセスを編み出すことで、新たな原材料の必要性を減らし、廃棄による環境負荷を最小限に抑えることができます。再生と再利用を通じて電子廃棄物を最小限に抑えれば、サステナビリティ目標を支えると同時に、効率的なリソース利用も促されます。
これらの分野を重視することで、データセンターはサステナビリティへの取り組みを強化し、全体的な環境負荷の低減に注力することができます。
HDDは最も環境に配慮したストレージメディアです。7 データセンターの全体的な環境負荷にそれほど貢献するわけではないものの、HDDの記録テクノロジーに組み込まれたイノベーション技術は、TCOの最適化とサステナビリティ向上の両面でメリットをもたらします。
面密度のイノベーションは、比類のない「規模の経済」により、AIイノベーションと持続可能なデータセンターの両方に不可欠なものとなりました。
面密度とは、記録メディアの表面積あたりに保存できるデータ量を表す測定指標です。ハードディスクドライブでは具体的にディスク1枚のデータ容量を指します。限られた物理的スペース内のストレージ効率に直接影響する面密度のイノベーションによって、企業は材料と電力を抑えながら同じスペース内のデータストレージ容量を拡大し、データストレージ単位あたりのCO2排出量を効果的に削減できるようになりました。
これは、この調査で注目したサステナビリティの課題に直接働きかける進歩です。面密度の向上は、物理的なスペースを追加する必要なくストレージ容量を拡張できるということであり、回答者の45.5%が障壁として挙げた「データセンターのスペース制約」を緩和します。また消費電力の削減により、回答者の約53.5%が最優先の課題の1つに挙げた「エネルギー消費量とCO2排出量の削減」と並行して取り組むことが可能になります。
大規模ワークロードを処理するデータセンターでは、従来型のストレージデバイスを次世代HAMR(熱アシスト磁気記録)ドライブに置き換えることで、総電力消費量の純減につながります。規模が大きくなれば、このような改善は絶対的なエネルギー消費量と運用上のCO2排出量の大幅な削減に直結し、これはストレージインフラが拡大したとしても変わりません。
グローバル規模で見ると、この効果はデータスフィア全体でさらに大きくなります。高面密度ドライブへの移行は、2028年までにクラウドデータストレージの総需要が167%増加すると予測されているにもかかわらず8、世界中のデータセンターでハードドライブが消費する総電力の割合は、約8%から約3%に低下する可能性があることを意味し、ストレージインフラのエネルギー消費で見ると合計62%の削減になります。
これが示すのは根本的な転換です。ストレージの効率性が向上しているだけではなく、記録されるデータの量が増大しているにもかかわらず、世界中のデータセンターで消費される総エネルギー量とCO2排出量の純減を可能にします。データセンターのTCOとサステナビリティの両面で期待できるニュースです。
こうした大規模のメリットは、デバイスレベルでの効率向上によって増強されます。電力消費に関して複数タイプのストレージメディアを比較したSeagateの分析に基づくと、ハードディスクドライブはエネルギー効率が最も高い大容量ストレージの選択肢です。ドライブレベルの電力効率係数は、動作電力ワット数(データの読み取り/書き込みに消費する電力の総量)とTBあたりのワット効率を含め、高密度であるほどいかに格納データ単位あたりのエネルギー消費が抑えられるかを示します。
データセンターは面密度の高いストレージソリューションを組み込むことで、スペースを広げる必要なく容量を拡大し、総エネルギー消費を削減して、運用中に発生するCO2排出への影響を抑える、このすべてがAI駆動ワークロードとクラウド拡張に対する需要を満たしたうえで可能になります。
大規模ストレージにとって、面密度の向上による影響は絶大です。データセンターは面密度の向上によって、物理的な設置面積を広げる必要なく、容量の大幅な拡大が可能になり、スペース、エネルギー、天然資源の使用を最小限に抑えてサステナビリティ目標を達成することができます。
ディスク10枚のハードディスクドライブを想定します。各ディスク(プラッターとも呼ばれる)に格納できるデータは3TB、つまりこのドライブに格納できるデータ容量は合計で30TBです。ハードディスクドライブ1台の容量を10TBから30TBへアップグレードした場合、これは最新のデータセンターで考えられる現実的なシナリオですが、この面密度の飛躍的向上により、次のことが可能になります。
では、HAMR対応ハードディスクドライブ技術の容量が40TBから50TBに拡大した場合、このメリットがどのように増大するかを考えてみましょう。
長期的には、CO2排出を抑制するために企業は事業運営全体を通じてAIを探求し活用すべきであり、サステナビリティを推進するテクノロジーの役割を自ら示すべきであるはずです。調査結果から、回答者の55.5%が「AIはデータストレージ運用を最適化し、サステナビリティを高める」と考えていることがわかります。AIにはサステナビリティの取り組みを推進する大きな可能性がある一方で、効率性を念頭に置いて開発しなければ、AIは電力消費と温室効果ガス排出を増大させかねないという事実を認識することが極めて重要です。
AIの可能性とサステナビリティ目標を両立させるためには、その効率性を最適化することが重要になります。電力効率の高いリソース計画、学習処理の最適化、ライフサイクル管理に焦点を当てることで、AIイノベーションを持続可能な運用に組み入れ、そのメリットを環境を犠牲にすることなく確実に引き出すことができます。
長期的なサステナビリティ計画は、意識や企業文化を変える取り組みの一環でもあります。持続可能性を目指す手段が効率の向上につながれば、経営陣の理解や協力をはるかに得やすくなり、その逆もまたしかりです。経営陣にストレージ運用とインフラを拡張するための持続可能なアプローチの検討を促す動機づけとして、世界中のデータセンター専門プロフェッショナルからは次の3つが上位に挙げられました。
米国のあるエキスパートは、経済的なメリットについて次のように説明しています。「企業は太陽光発電アレイに(多額の)出費をしたくはないでしょうが、株主が賛成するはずもないから、やりたくてもできないのかもしれません。基本的に誰にとってもネットゼロになるのなら、頭を悩ます必要はなく、連邦政府の立場から言うと、太陽光発電アレイは30%の税控除を受けることができ、それでもかなりの費用がかかるものの、30%は戻ってくるので、わずかではありますが相殺できます」
また、各国政府、ASEANやEUなど地域貿易圏からの税控除といった、経済的な優遇措置の重要性を強調するエキスパートも複数いました。
たとえばドイツのKfW 45基準では、建物のエネルギー消費量の目標レベルが規定されており、この数値が低いほど環境効率が高いことを示す指標となっています。これらの基準を満たすことで、企業は税控除や政府からの助成金給付の対象となり、さらに持続可能な成果につながる運用が奨励されます。
コラボレーションは企業にとって排出量削減の新たな手段です。データセンター専門のプロフェッショナルは、より持続可能なデータストレージインフラの構築には、政府機関との連携(約22%)やその他の機関との連携(15%以上)が有益だと考えています。
データセンターは、データストレージ運用が環境に及ぼす負荷を評価する標準のツールや手順を策定するなど、業界パートナーとの協同に価値を見出すことができるかもしれません。このような連携を通じて業界全体のベンチマークやベストプラクティスが確立されれば、企業は効果的にパフォーマンスを評価して改善の余地を見つけることができます。
この調査結果から、持続可能なデータスフィアを支えるうえで、業界全体での協力が担う重要性が浮き彫りになりました。
データセンター、テクノロジープロバイダー、部品サプライヤー、規制機関が連携することで、エネルギー消費を削減し、CO2排出を最小限に抑えて、資源の効率的な活用を促進する革新的なソリューションを開発・採用できます。これには高度な冷却ソリューションの採用、再生可能エネルギーの採用、ストレージ機器のライフサイクル延長、サステナビリティへの取り組みを重視するサプライヤーの選択、コンポーネントの責任ある廃棄のための循環型プログラムの実施などが含まれます。サプライヤーが実現するイノベーションには、さらに持続可能で効率的なデータセンターへの道を拓く、重要な役割があります。
また、環境負荷に関する透明性が確保された報告やリアルタイムの監視も、データセンターのサステナビリティを管理するためのインサイトを提供する重要な手段です。包括的な環境負荷レポートの提供、ライフサイクル評価(LCA)の実施、サステナビリティ調整に関する成功事例の共有によって、サプライチェーン全体を通じて説明責任と継続的な改善が促進されます。加えて、経済的な優遇措置や環境に配慮したグリーン企業の公的認定も、データセンターの持続可能な運用への移行を後押しします。
このレポートでは、データセンター業界における持続可能性の傾向と戦略についてのインサイトを提供します。サステナビリティへの包括的なアプローチを採用し、業界ステークホルダーが積極的に参加することで、企業はAIやデータセンター運用に対する高まる需要と環境への配慮のバランスをとることができます。
データセンターはコラボレーションとイノベーションを通じて、スケーラブルで効率的かつ持続可能なデータスフィアの創造が可能になります。