NVMeハードディスク・ドライブとAIストレージの未来
17 3月, 2025
人工知能によって、さまざまな業界が飛躍的な進歩を遂げつつあります。人工知能がもたらす革命的な変化は、医療診断、金融モデリングから自動運転車、大規模自動化にいたるまであらゆる分野に及んでいます。しかし、AIシステムが高度化するにつれて、データ・ストレージに対する要求が急激に増大し、拡張性、効率性、コストに課題が生じています。
機械学習のデータセットは今やペタバイト規模のストレージを必要とし、進化を続けるAIモデルに対応するためにエクサバイト規模のデータセットを管理する企業もあります。モデル・トレーニングと推論をサポートするには、これらの膨大なデータセットの効率的な保存、検索、処理が欠かせません。AIを支えるストレージ・インフラストラクチャは、もはや単なるITの問題ではなく、AIイノベーションそのものの不可欠な実現手段となっています。
AIコンピューティングが進歩しているにもかかわらず、従来のストレージ・アーキテクチャは、データを大量に必要とするGPUに対応できる規模にすると、複雑で高価なものになります。これは、AIの普及を遅らせる要因となっています。これには3つの理由があります。
まず、SSDベースのアーキテクチャは高速パフォーマンスを実現するものですが、取得コストが高いため、AIトレーニングのワークロードが必要とする大規模ストレージとしては非現実的です。大容量のデータセットをSSDだけで保持することは、ほとんどの企業にとって財務的に持続不可能です。
また、SAS/SATAハードディスク・ドライブ・システムは、信頼性とコスト効率の高いストレージとして現在でも多くのエンタープライズ・アプリケーションに使用されていますが、AIワークロードのストレージ・インフラストラクチャに対する要求は他に例を見ないものです。SAS/SATAインターフェイスは、独自のシリコン、ホスト・バス・アダプタ (HBA)、コントローラ・アーキテクチャに依存しています。これらは、AIワークロードが必要とする高スループットと低遅延を実現するために設計されたものではありません。これらが要因となって、AIの導入規模が拡大するにつれて複雑さと遅延が増大し、AIモデルによる膨大なデータセットへのアクセスが一層困難になります。
最後に、AIワークロードにクラウドベースのストレージを利用すると、WANデータ転送コストの増大と遅延の急増を招いたり、検索時間が予測困難になったりすることも少なくありません。このような非効率性によってAIモデルの応答性が制約されるだけでなく、処理ハードウェアがリモート・データを待つため、運用経費が増大します。
つまり、AIが拡大を続けるなかでは、新しいアプローチが必要です。容量、コスト、速度のバランスを取りながら既存のストレージ・アーキテクチャを補完し、AIのトレーニングと推論を妥協することなくサポートすることが求められています。
Seagateは、大容量ハードディスク・ドライブにNVMeテクノロジーを適用する革新的なソリューションを他に先駆けて開発しています。Seagateは、ハードディスク・ドライブを接続する将来の標準プロトコルとしてNVMeを開発することで、AIデータ・パイプラインを最適化する代替手段を提供します。これにより、ハードディスク・ドライブの手頃な価格とストレージ密度の利点を維持しながら、ストレージのボトルネックを軽減します。
SAS/SATAベースのハードディスク・ドライブとは異なり、NVMeハードディスク・ドライブでは、HBA、プロトコル・ブリッジ、追加のSASインフラストラクチャが不要なので、AIストレージが簡素化されます。このドライブを使用すると、高密度ハードディスク・ドライブ・ストレージと高速SSDキャッシュを単一のNVMeアーキテクチャに統合できるため、AIワークロードのシームレスな拡張が可能になります。
このシフトによって多大なメリットがもたらされます。まず、NVMeハードディスク・ドライブを採用すると、プロセッサとのインターフェイスとなるハードウェア・アダプタが不要になるため、AIストレージの導入が簡素化されます。専用のコントローラを使用しなくても大規模なAIストレージ環境を構築できます。また、NVMeドライバとOSスタックが単一となるため、ハードディスク・ドライブとSSDの効率的な連携が実現します。個別のソフトウェア層を用意する必要はありません。
最も重要なメリットの1つは、GPUからストレージへのデータ・アクセスがDPUを介して直接行われるため、CPUのボトルネックを回避できる点です。従来のストレージ・アーキテクチャでは、データがCPU主導のパイプラインを通過するため、遅延の問題が発生していました。NVMeハードディスク・ドライブを使用すると、このような非効率性が解消されるため、AIモデルが膨大なデータセットを取り込んで処理する際の遅延が大幅に軽減されます。
さらに、NVMe over Fabrics (NVMe-oF) によってNVMeハードディスク・ドライブが分散AIストレージ・アーキテクチャに統合されるため、データ・センターの高性能ネットワーク内でのシームレスな拡張が可能になります。AIワークフローにふさわしい柔軟かつ構成可能なストレージ・ソリューションを必要としている企業にとって、この機能は非常に有益なものです。
NVMeハードディスク・ドライブとSSDを併用すれば、アクティブなデータセットにはSSDを用意し、AIトレーニング・データの長期的な保持にはハードディスク・ドライブを使用することで、パフォーマンスを維持しながらコストを最適化できます。

Seagateは、NVMeハードディスク・ドライブが現実世界に与える潜在的な影響を明らかにすることを目的に、概念実証 (POC) を実施しました。この実証では、NVMeハードディスク・ドライブ、NVMe SSD、NVIDIA BlueField DPU、AIStoreソフトウェアを統合し、高効率のAIストレージ・エコシステムを実現しています。
このPOCによって、AIワークフローにおけるNVMeハードディスク・ドライブの主な利点が明らかになるとともに、大規模なAIストレージ環境に大きな影響を与える可能性があることが証明されました。
Seagateはこの概念実証を通じて、NVMeハードディスク・ドライブが世界で最も要求の厳しいAIワークロードをサポートできること、つまりオールフラッシュ・アーキテクチャは必要でないことを明らかにしています。
Seagateは、スマート・ファクトリにAIモデルを導入した10年にわたる経験を活かし、現実世界のAIワークロードを使用したNVMeハードディスク・ドライブの検証を行っています。
Seagateの量子アンテナ製造施設では、AIを活用して欠陥検出を行っています。そのモデル・トレーニングと継続的改善には、高速な画像取り込みと迅速な検索が欠かせません。Seagateは、AIを搭載した自社の製造環境から得られたインサイトを適用することで、NVMeハードディスク・ドライブがこのプロセスを実現する手段となる理由を探っています。このドライブによってリアルタイム処理と長期的な保持を両立させる拡張性とコスト効率の高いストレージがもたらされます。その結果、以下が実現することがその理由と考えられます。

Seagateは、NVMeハードディスク・ドライブをストレージ・アーキテクチャに統合する試みを通じて、この新技術によってAI欠陥検出のリアルタイムの応答性とAIストレージ・コストの削減を同時に実現できることを明らかにしました。効率の増加分には、AI主導分析の高速化、精度の向上、インフラストラクチャ・コストの削減などを織り込んでいます。
NVMeハードディスク・ドライブは、製造業だけでなく、自動運転車、医療画像処理、金融分析、ハイパースケール・クラウドAIプラットフォームにも応用できます。
AIインフラストラクチャは大量の電力を消費するため、持続可能性への懸念が高まっています。SeagateによるNVMeハードディスク・ドライブへの取り組みは、SSDを多用するアーキテクチャに代わる、コスト効率とエネルギー効率の高い選択肢を探るものです。
SSDと比較した場合のNVMeハードディスク・ドライブのメリットには以下のようなものがあります。
AIのインフラストラクチャが拡大するにつれ、持続可能なストレージは、コストの削減と環境負荷の軽減の両方にとって不可欠な要素になると見込まれます。Seagateの開発ロードマップでは、持続可能性の長期目標を達成しながらAIストレージを拡張できるよう組織を支援することを目標に掲げ、NVMeハードディスク・ドライブの効率の継続的な向上に取り組む計画です。
Seagateは、次世代のAI対応ストレージ・インフラストラクチャを実現する革新的な技術の開発を進めています。これは、業界の動向とも合致した、ハイパースケール環境とクラウド環境のニーズに応える取り組みです。
ロードマップには以下を織り込んでいます。
Seagateは、お客様やパートナーと協力し、NVMeハードディスク・ドライブを次世代のAIストレージ・ソリューションに適合させる方法を模索しています。AIストレージの需要に応える効率的な手段を手頃な価格で企業に提供することが目的です。
AIが業界を変革しつつあるなかで、多くの組織がデータ管理の複雑化とストレージ・コストの上昇に苦しんでいます。AIイノベーションを前進させ続けるためには、拡張性と効率性を兼ね備えたストレージが欠かせません。
NVMeハードディスク・ドライブに関するSeagateの取り組みの結果、NVMe接続によってハードディスク・ドライブのコスト面と密度面の利点を維持しながらストレージ導入の複雑さを軽減できることが明らかになってきました。
AIStoreの統合、NVMe-oFによる拡張、GPUとストレージの通信経路の最適化をPOCの中で実現することで、SeagateはAIインフラストラクチャのイノベーションにおける次の波をリードしています。
AIが産業を再構築するなかで、Seagateは、データ・ストレージに対する要求の高まりに対応することを目的に、AIストレージ・インフラストラクチャの拡張方法の再定義を進めています。
AIのデータ価値重視の傾向が高まっていることを背景に、Open Compute Projectのイベントに過去最多の参加者が結集