トラック・スクイーズと高振動環境:クラウド・データ・センターの課題とソリューション
05 2月, 2025

高まり続けるデータ需要に対応しようと、ラックに搭載されたハードディスク・ドライブが絶え間なく回転している現代のデータ・センターでは、ストレージの信頼性を維持することが容量を拡充するのと同じくらい重要な意味を持ちます。ですがハードディスク・ドライブ容量を増やすもっとも効率的で費用対効果の高い方法であるところの、さらなる記録密度の追求は、必然的に新たな課題をもたらします。なかでもトラック・スクイーズの問題は喫緊の課題であり、高密度化しているデータ・センターの典型である高振動環境では、問題の程度はより大きくなります。この課題に対処することは、データ保全性を保つだけでなく、信頼性の高いストレージに頼っているさまざまなシステムやアプリケーションをサポートするためにも不可欠です。
トラック・スクイーズはデータ・トラック、またはシリンダと呼ばれるハードディスク・ドライブのプラッタに書き込まれたデータの同心円状の輪が、意図した位置から押し出されることで発生します。サーバーのファンや冷却システム、機器を高密度に搭載したラックの振動などの環境的な要因が、この事象を引き起こす場合があります。Seagateの主席エンジニアであるジョサイア・ワーノウ (Josiah Wernow) が説明するように、この動作の乱れがトラックの軌道を歪めてしまい、「高速道路で注意散漫になっているドライバー」のような状態を生じます。
このような軌道のズレは、データ保全性にとって深刻なリスクとなります。トラックが隣接するトラックの方に流れてしまうと、読取り/書込みヘッドがデータを上手く探し出したり回復したりできず、セクター不良と呼ばれる状態になる可能性があります。場合によっては、影響を受けた領域のデータを永久に復元できなくなるおそれがあります。この問題がもたらす影響は明白です。クラウド・プロバイダやエンタープライズ企業にとっては、ストレージの信頼性がわずかに損なわれるだけでもダウンタイムの発生やデータの消失、お客様の不満につながるなど、より大きな運用上の問題が連鎖的に起こりえます。
クラウド環境またはエンタープライズ環境で事業を展開する企業にとっては大きなリスクがあります。データ・センターにはグローバルな金融システムや医療システム、AIワークロードなど、数え切れない分野を支えている重要な情報が保存されています。トラック・スクイーズが生じるとその影響は外に広がり、ワークフロー全体を危険にさらします。
影響がさらに広がればITインフラのエコシステムにまで問題が及びます。トラック・スクイーズによってデータの信頼性が低下すれば冗長性やバックアップ、エラーを是正するための対策に投資せざるを得なくなり、コストが上昇して技術革新に遅れが出ます。エンド・ユーザーへの影響としては、ストリーミング・サービスの不調やAI主導のインサイトの遅れ、サプライ・チェーン管理や患者の治療などのミッション・クリティカルな業務に支障が出ることが考えられます。
トラック・スクイーズを解消するには、その根本的な原因と技術的な影響への対象が必要です。Seagateは高密度化と引き換えに信頼性が失われることがないように、さまざまな画期的な技術を開発しました。
そうした解決策の1つがデュアルステージ・アクチュエーションです。読取り/書込みヘッドの位置決めを精密にするために第二のアクチュエータを追加したデュアルステージ機構は、振動が要因となる環境でも高い精度を発揮します。この高度な制御によってヘッドが対象トラックから外れない軌道を維持できます。
さらなる技術的進歩の成果には、ハードディスク・ドライブ内部の空気をヘリウムに替えたヘリウム充填型ドライブなどがあります。ヘリウムは空気より軽く密度が低いため、ドライブ内部の気流の乱れや振動を抑えられます。この性質により過酷な条件下でもドライブのトラック位置の保持能力が向上します。
Seagateの画期的な技術の広がりは、デュアルステージ・システムを進化させたトライステージ・アクチュエータに到達しています。トライステージ・アクチュエータは第三の制御レベルを組み込むことで、激しい振動の影響をより高精度で打ち消します。ワーナウが言うように、このシステムは言うなれば港湾労働者に荒天の中でも貨物をより正確に所定の位置に誘導できる、長い腕を与えるようなものです。
トラック・スクイーズ対策でもう一つ重要なテクノロジーが、オンシリンダ・リミット (OC Lim) の適用です。ガードレールの役割を果たすOC Limは、読取り/書込みヘッドが軌道から逸れて隣接するデータを破損させてしまうのを防ぎます。OC Limはハードディスク・ドライブのファームウェアに組み込まれた動的なセーフガードとして機能し、高密度ハードディスク・ドライブの狭いトラックを横切る読取り/書込みヘッドの位置を常に監視します。このシステムは、ヘッドがデータの書込み時に超えてはならない限界位置(つまり境界線であり「ガードレール」)をあらかじめ設定することで機能します。
書込み動作が開始されると、OC Limはドライブのセンサーから得られるリアルタイムの位置フィードバック情報を利用して、ヘッドの位置を追跡します。ヘッドがこの設定限界を超えて逸れ始めると、OC Limが介入して書込み動作を停止させます。これによりヘッドが意図せず隣接トラックのデータを上書きしたり、破損させたりするのを防ぐことができます。
この仕組みには適応性があり、境界は静的なものではありません。動的なOC Limの実装においては、この限界位置は温度の変化や環境的な振動レベルなどのドライブ動作時の条件に応じて調整が利くようになっています。OC Limはリアルタイムで適応することで、条件が変化しても安全な範囲内でヘッドが動作するようにします。
全体として、OC Limは各トラックの周囲に緩衝地帯を作ることで機能し、効果的に正確な書込み動作を実行します。大容量化に対応するためにトラック幅が縮小した結果、わずかなズレが致命的な打撃をもたらす可能性があり、この緩衝地帯はことのほか重要な役割を担っています。この仕組みによってOC Limは動作効率を保ちつつ、保存データの完全性を守ります。
Seagateの画期的な技術は、自社単独の力で開発されているわけではありません。それぞれの環境で固有の課題に直面しているデータ・センター事業者との緊密な連携によって形作られています。たとえば、極端な温度環境や振動条件で運営されている施設もあるため、具体的な負荷に合わせてドライブを微調整する必要があります。SeagateはOC Limのような動的な機能を統合することで、そのソリューションを効果的に機能させるだけでなく、多様なお客様のニーズを満たすのに十分な汎用性を確保しています。
この連携を通じたアプローチを取っているのは、ハードウェアの面だけではありません。Seagateはお客様と協力して高振動環境のシミュレーショントを行い、ラック内の配置を最適化しています。このような取り組みと、振動を検知して是正するファームウェアの進歩が相まって、現実の課題に対応できるドライブを実現しています。
こうした画期的な技術がもたらす影響は、トラック・スクイーズの防止にとどまりません。Seagateは高振動環境におけるデータの信頼性を保つことで、データ・センターの継続的な拡張に応え、中心産業や新技術をサポートします。たとえばAIワークロードを効果的に機能させるには、膨大なデータセットに滞りなくアクセスできることが肝心です。ストレージの信頼性が、このようなワークロードが止まらずに動作するように支え、自律システムや医療診断、自然言語処理などの分野を発展させます。
Seagateの取り組みの波及効果は、ITシステムの費用対効果にも表れています。Seagateはエンタープライズ・ドライブにおけるトラック・スクイーズを軽減し、高価な冷却システムや冗長性対策の必要性を低減することで、データ・センターが総所有コスト (TCO) を抑えながら容量を拡充できるように支援します。このことはストレージ・エコシステムの持続可能性を高め、組織とエンド・ユーザー双方に利益をもたらします。
トラック・スクイーズと高振動環境という課題は、データ・センターの需要が高まるにつれてさらに高度化していくと予想されます。Seagateはそのイノベーションへの取り組みによって、ストレージ・ソリューションの課題と最前線で向き合い続けています。Seagateの技術はトライステージ・アクチュエータであれヘリウム・ドライブであれ、どれも今日の問題を解決するとともに、データ・ストレージ技術の将来的な発展の基盤を築いています。
ワーナウが言うように、「私たちに求められている精度は信じ難いほど高い水準にあります。ですが、その要求の高さが取り組むに値する価値を生んでいるのです」エンジニアたちの努力によって、Seagateはデータ・ストレージの完全性を保ち、データの拡大を後押ししています。さらには産業を支える重要な情報へのシームレスなアクセスを保証し、コミュニティを結びつけ、世界中のイノベーションを活性化することにも貢献しています。
AIのデータ価値重視の傾向が高まっていることを背景に、Open Compute Projectのイベントに過去最多の参加者が結集
投資額は5年間で1億1500万ポンド。ハードディスク・ドライブ容量の大幅な引き上げを目標に