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AIに効果的な4つのデータ管理ハック

再利用、リサイクル、用途の転換、削減の手法を使用して、組織のAIデータ処理を最適化する方法について説明します。

目次

適切でないデータ管理は、不安定な基礎の上に家を建てるようなものです。データを適切に運用できなければ、AIモデルを構築する際に、パフォーマンスの低下、コストの増加、時間の浪費などが生じてしまいます。そのため、AIプロジェクトの成功には、効率的なデータ管理が極めて重要です。本稿では、組織のAI戦略の一環としてデータ管理を検討する際に役立つ4つの主要なフレームワーク、「再利用」、「リサイクル」、「用途の転換」、「削減」について解説します。

1.再利用。

組織内にあるデータの宝庫には、磨けば再び輝く貴重な宝石とも言える情報が眠っています。

データ管理手法である再利用では、既存データを新しい分析や用途に再利用することで、データ資産価値の最大化、データ冗長性の削減、データに基づく意思決定の効率化などを行います。ここでは、2つの再利用戦略について説明します。

  • 転移学習とファインチューニング。この2つは、建築家に新しい家を最初から設計してもらうのではなく、しっかりと建てられている家を改良することと考えると良いでしょう。例えば、Microsoft® Copilotのようなトレーニング済みモデルを利用すると、堅牢性の高い基盤を得られます。最初に膨大なデータセットでトレーニングされた既存モデルを、チャットボット、要約、詩の生成といった特定のタスク用に変更できます。この方法では、既存ナレッジの活用によって、時間、計算処理リソース、労力を節約しますが、データ管理の観点から言うと、これは非常に効率的なアプローチです。GenAI空間で基盤モデルをファインチューニングすれば、極めて高度な計算能力や大量のラベル付きデータを最小限に抑えられ、これによって、特定のユースケースやビジネス・ニーズに合わせた大規模モデルの開発を実行しやすくなります。
  • ラベル付きデータセットの再利用。ラベル付きデータは、よく整理された図書館のように、非常に価値があり、すぐにアクセス可能です。アノテーションされたデータセットは、プロジェクト間で再利用することができます。例えば、物体検出用にラベル付けされた画像データセットは、さまざまなコンピュータ・ビジョン・タスクの強固な基盤となります。ラベル付きデータがすでにあるのに、わざわざ作り直す必要はないでしょう。ラベル付きデータの再利用は、費用対効果の向上、開発の迅速化、アノテーションの労力削減を可能にし、賢明な投資となります。モデルの精度改善や、評価プロセスの効率化にもつながります。

データを効果的に再利用すれば、データの可能性を最大限に引き出し、イノベーションと効率化を推進できます。こうした戦略を取り入れることで、既存のリソースを最大活用して、これまでよりも賢明かつ迅速な進歩への道を切り開くことができます。

2.リサイクル。

リサイクルとは、積極的には使用されていないデータを再処理し、用途を転換するプロセスを意味します。この手法では、古いデータをクリーニング、変換、統合して、新しいアプリケーションや分析に利用することで、その価値を最大化すると同時に、無駄を削減します。大量のテキストでトレーニングされたGoogle BERTモデルは、データ内でのデータ・リサイクルによる効果を実証しています。膨大な量の既存テキスト・データを再処理し用途を転換することで、BERTの自然言語理解は、著しく進歩したのです。AIデータを最大活用するには、従来の方法を当たり前と捉えず、データを斬新にリサイクルしなければなりません。

  • さらなるラベル・アノテーション。これにより、既存データの有用性が高まります。センチメント分析のデータセットがあるとしましょう。これに他のラベル(皮肉、緊急など)でアノテーションを行うと、応用範囲を広げることができます。IBMの調査によると、ラベルの追加によって、モデルのパフォーマンスが最大15%向上する可能性があります。
  • 合成データの生成。実世界のデータが不足している場合は、合成データが役に立ちます。敵対的生成ネットワーク (GAN) などの生成モデルを使うと、現実的なサンプル・データを生成できます。例えば、NVIDIA StyleGANでは、顔認識システムのトレーニングに利用できる本物そっくりの顔が生成されます。合成データを使えば、必要な実データを最大80%削減でき、コストの大幅な削減や、プライバシーの保護も行えます。

3.用途の転換。

用途の転換とは、既存データを、本来の目的にとらわれず、新たな分析、応用、文脈に利用することです。この手法では、データを変換し適応させることで、クリーニング、再フォーマット、他のデータ・ソースとの統合といった新しい要件に対応します。データの用途を転換すると、データ資産の価値向上、冗長性の削減、効率の改善を実現し、ひいては、より多くの情報に基づいた意思決定とイノベーションを推進できます。

データの用途を効果的に転換するための手法を次に示します。

  • データのクリーニング。不正確さ、矛盾、重複を排除して、データ入力の品質を高めます。分析とアプリケーションの完全性を維持するには、このステップが非常に重要です。
  • データの変換。新しい分析やアプリケーションに適した別のフォーマットや構造にデータを変換します。この手法では、データの正規化、データ型の変更、データセットの再構築などを行います。
  • データの統合。異なるソースから取得したデータを組み合わせて、統合データセットを作成し、より包括的にデータを把握できるようにします。これにより、単独のデータセットには現れなかった新たなインサイトや相関関係が明らかになります。
  • データの充実度向上。外部ソースから取得した新しい情報を追加して、既存データを充実させることで、データの価値を高めインサイトを深めます。人口統計データや市場データなどの関連情報を追加することもあります。
  • データの匿名化。データの変更によって、プライバシーを保護すると同時に、分析の有用性を維持します。この手法は、機密情報や個人情報を扱う場合に特に重要となります。
  • データの可視化。チャートやグラフなどの視覚的なツールを使い、データをアクセスしやすくわかりやすい形式で提示します。効果的な視覚化によって、複雑なデータが、理解しやすく、実用的なものになります。

こうした手法を取り入れると、データを最大活用して新たなインサイトを引き出すとともに、戦略的イニシアチブをサポートできます。

4.削減。

可能な限り多くのデータを保存することが大きな価値につながる傾向があります。特にAIのユースケースにこれが当てはまりますが、場合によっては、データが占めるスペースを減らす必要があります。削減は次の方法で行うことができます。

  • 重複排除。データセットを散らかったワークスペースにたとえてみましょう。重複排除では、データ管理に近藤麻理恵氏の手法を活かすことになります。重複するレコードを特定し、排除するのです。重複排除を行うと、データの完全性と品質が高まり、データを片付けることで、データの合理化やモデル・トレーニングの効率化も可能になります。
  • 圧縮。データ圧縮とは、整然とした省スペース・パッケージに収まるようにファイルを小さくするような手法です。スーツケースが衣類だけで埋まらないようにするトラベル・キューブのような圧縮技術(JPEGやPNGなど)を使うと、品質を低下させずにデータ・サイズを最小化できます。データを圧縮すれば、データ転送が高速化され、コストも減少します。また、画像、テキスト、数値などのデータの種類に関係なく、保存を効率化すると同時に必要な情報を保持することが可能です。
  • 正規化。音量がばらついている曲を集めたプレイリストを聴いたことがあれば、正規化の価値がわかるでしょう。この手法では、フィーチャー間のスケールに一貫性を持たせることで、データを調和させます。このプロセスによって、データの冗長性が最小化され、データの完全性が向上するほか、クエリが簡素化されます。AIモデルのトレーニングでは、これが、迅速な収束や精度向上につながります。音量を適切にミキシングする場合と同じように、データセットの適切な正規化は、利用可能なデータを生み出すのです。

AIアプリケーションを強化する。

効率的なAIデータ管理は、あると良い特別な能力ではありません。必須の能力であり、AIプロジェクトを成功させる基礎となるものです。

しっかりとした基礎のおかげで頑丈な家が建つように、AIモデルの堅牢性を高めるには適切なデータ管理が不可欠です。「再利用」、「リサイクル」、「用途の転換」、「削減」という4つの主要な管理手法を取り入れると、AIデータ管理のプラクティスを最適化できます。ラベル付きデータセットの再利用によって、既存データの価値を最大化し、再処理や用途の転換によって、データをリサイクルすることで、革新的なソリューションを生み出せます。新しい分析やアプリケーション向けにデータの用途を転換すると、データ資産から最大限の価値を引き出せます。さらには、データの削減が、データの合理化、トレーニングの迅速化、モデルのパフォーマンス向上につながります。

こうした戦略を取ることで、成果が上がり、最終的にAIプロジェクトの目標を達成できます。